公開日:2023.02.28

更新日:2023.02.28

ABS樹脂(じゅし)丈夫(じょうぶ)なプラスチック!どんな物に使われる?

ABS樹脂(じゅし)は丈夫(じょうぶ)なプラスチック!どんな物に使われる?

ABS樹脂じゅしは、いろいろなことに使える性質せいしつを持つプラスチックで、らしに欠かせないさまざまな製品せいひんに利用されています。

 

他のプラスチックとの大きなちがいは、表面に光沢こうたくがあること。

 

そのため、容器ようきの外側に使われることが多く、わたしたちも知らないうちに、どこかでABS樹脂の製品を見たり、さわったりしているのです。

 

あまり聞きなれないABS樹脂というプラスチックが、どんな特徴とくちょうを持ち、どんな製品になっているのか、分かりやすく解説かいせつします。

ABS樹脂じゅしは、どんな物質から作られている?

ABS樹脂は、ポリスチレンというプラスチック素材そざいの強度を高めるために、1940年代から1950年代にかけて開発されたプラスチックです。

 

そっくりな名前の「AS樹脂」というプラスチック素材がありますが、ABS樹脂はAS樹脂よりも衝撃しょうげきに強く、A(アクリロニトリル)、B(ブタジエン)、S(スチレン)の特性とくせいをバランス良くそなええる素材として改良を加えられた物です。

 

ABS樹脂は、それぞれの頭文字であるA、B、Sを取って「ABS樹脂」と名付けられました。

 

ABS樹脂が最初に作られたころは、アクリロニトリルとブタジエンを一緒に化学的につなぎ合わせて(「重合」といいます)作った「NBR」と、アクリロニトリルとスチレンを一緒に重合して作った「AS樹脂」を混ぜる方法が使われていました。

 

今では、ブタジエンを重合して作った「BR」にアクリロニトリルとスチレンを重合して作る方法などがあります。

 

日本では1960年代から、工業製品の発展はってんとともに生産量せいさんりょうえ、らしの中で使うさまざまな製品の原料げんりょうとして現在まで活用されてきました。

3つの成分が持つ、それぞれの特性とくせい

3つの成分が持つ、それぞれの特性を見てみましょう。

 

ABSのAに当たるアクリロニトリルは無色透明とうめい液体えきたいで、熱や衝撃に強いプラスチックを作るための原料として、さまざまな成分と組み合わせることができます。

 

ポリスチレンは、スチレンのモノマーを重合じゅうごう化して作られるプラスチックです。

 

1839年に発見されて1930年には実用化された、もっとも古いプラスチック製品せいひんの原料でもあります。

 

わたしたちの身の回りにあるたくさんのプラスチックの中でも、特に多く使用されている「4大汎用はんようプラスチック」の1つで、カップめん容器ようきなどの食品包装ほうそう材料ざいりょうや、工業用の部材など、さまざまなものに使われています。

 

アクリロニトリルとスチレンを一緒に重合すると、90〜100℃の高い熱にえられるAS樹脂じゅしとなります。

 

さんやアルカリによる劣化れっかを起こしにくい特性もあるので、食品容器ようきや歯ブラシ、赤ちゃんのおしゃぶりなど、口の中に入れる物にも使われています。

 

このAS樹脂に、アクリロニトリルとブタジエンを一緒に重合して作ったNBRを加えることで、AS樹脂よりも耐衝撃性たいしょうげきせいの高いABS樹脂が生まれました。

 

重合してできたNBRのうち、ブタジエン部分は、ったりされたりした時に、元の形にもどろうとする力が強いという特性があります。

 

ゴムの性質があるブタジエンの特性をくわえたことで、AS樹脂のメリットをのこしたまま、さらに強い素材を作ることができたのですね。

ABS樹脂じゅしは、どんな強さを持つプラスチック?

プラスチックは日常にちじょうで使う製品せいひんに多く利用りようされているので、使っているときにこわれたりすると、人がケガをして大変なことになりますね。

 

だから、何度も強い力がかかるようなものを作るには、丈夫じょうぶ素材そざいを使わなければなりません。

 

ABS樹脂は、衝撃しょうげきに強い特性を持ちます。

 

比較的ひかくてき高い温度に強く、また、低い温度やほとんどの薬品にも強いことから、室内で使うものにも、屋外で使うものにも広く利用されています。

ABS樹脂じゅしのメリット

プラスチックには、熱を加えるとけるタイプと、ぎゃくに固くなるタイプがあります。

 

熱を加えるとけるタイプは「熱可塑性樹脂ねつかそせいじゅし」とび、逆に固くなるタイプは「熱硬化性樹脂ねつこうかせいじゅし」と呼びます。

 

ABS樹脂は高温でチョコレートのようにやわらかくなる熱可塑性樹脂ねつかそせいじゅしのタイプで、成形加工せいけいかこうしやすい点がメリット。曲げたり、かたながんだりして複雑ふくざつな形に整えることもできます。

 

加工した後は、衝撃しょうげきや曲げ、りに対しての強度や、70〜100℃の熱や低温にもえられる強さを持つ素材となります。

 

加工をした後には表面に光沢こうたくが出るためそのままで製品の外装がいそう用できる美しさです。

さらに、印刷いんさつ塗装とそうなどの表面加工もしやすいことから、デザイン性を求められる製品にも多用されています。

ABS樹脂じゅしのデメリット

ABS樹脂の弱点は太陽光やUV(紫外線しがいせん)で、長時間あたると劣化れっかするデメリットがあります。

 

耐熱性たいねつせいは高いのですが、プラスチックはそもそも可燃性かねんせいですから、火をつけるとえてしまいます。

 

また、アルコールに長時間ふれるとふくらむ性質せいしつがあり、アルコールをふく液体えきたい容器ようきにはてきしていません。

ABS樹脂じゅしはどんなものに使われる?

テレビ

衝撃しょうげきに対する強さと、高温にも低温ていおんにもえられる強さ、そしてツヤのある美しさを持つABS樹脂は、わたしたちの生活でかせない存在そんざいです。

 

家電製品せいひんのように、電気を流したまま長時間連続れんぞくして使うものや、トランクのように中身を守らなければならないものなど、熱や衝撃しょうげきのダメージから部品や人を守るものに多く使われています。

ABS樹脂じゅしはいろいろな種類がある

ABS樹脂は、3つの成分を合わせて作られていることを説明しましたね。

 

この成分の配合はいごうりょうえたり、他のものをくわえたりすることで、強度のちがう種類しゅるいを作ることができます。どのようなものがあるのか、一部を見てみましょう。

 

・ガラス繊維せんいを加えて、熱や強度を高めた「ガラス繊維強化ABS樹脂」

 

耐熱性たいねつせいを高めた「αアルファメチルスチレンけい、フェニルマレイミド系」

 

ちょっとややこしい名前が出てきましたね。

「αメチルスチレン」とは、スチレンよりも耐熱性の高いαメチルスチレンをスチレンのわりに用いることで、耐熱性の高いABS樹脂を作ることができるものです。

 

「フェニルマレイミド系」ABS樹脂とは、αメチルスチレン系よりもさらに高い熱にえられる性質が求められる時に用いる成分で、もとのABS樹脂が使えないような高温の環境かんきょうでも使用できる素材そざいを作ることができます。

 

他にも、寒さにえる力を高めるために、ブタジエンを他の成分と入れえる方法などがあります。

どんな製品せいひんに使われている?

みなさんは、おもちゃのブロックで遊んだことがありますか?あれもABS樹脂じゅしで作られている製品です。軽くてこわれにくく、使いやすいプラスチックであることがよくわかりますね。

 

表面のツヤも、少し遊んだくらいで消えることはなく、きれいな状態じょうたいで長く遊ぶことができます。

 

おもちゃの他には、以下いかのようなものがABS樹脂で作られています。

 

・日用品…おぼんやおわんなど漆器しっきの食器、ゲーム本体、トランク、クリップボードや小物ケースなどの文具

・電気製品…エアコンのき出し口、冷蔵庫れいぞうこのインナーボックスやドアライナー、テレビフレーム、洗濯機せんたくきパン、パソコン本体、デジタルカメラのケースや三脚さんきゃくなど

・自動車…ハンドル、センターパネルやシフトレバーなどの内装ないそうや、フロントグリルなど外装の部品

建築材けんちくざい…ドア、たな、パイプなど

・スポーツ用品…新体操たいそう用品やダイビングで使うシュノーケル部品など

楽器がっき用品・楽器ケース等…タンバリンの本体など楽器の一部、バイオリンケースなど楽器を持ち運ぶための収納しゅうのうケースなど

 

上記の他、ヘルメットなど、命を守るために身体に装着そうちゃくするものに使われることもあります。

ABS樹脂じゅし加工かこうしやすい便利べんり素材そざい

ABS樹脂は、小さなおもちゃから大きなものまで、さまざまなものの原料げんりょうになっています。

 

こんなに幅広はばひろ製品せいひん大量たいりょうに作るためには、加工の手間が多い材料ざいりょうは使えません。

 

高温でける性質せいしつを持つABS樹脂は、どんな形にも仕上げられる点が注目され、使用する用途ようとが広がりました。

 

また、成形加工せいけいかこう後は表面にツヤが出るため、ツヤ出しのためにかかる工程数こうていすうらすことができ、コストの削減さくげんにもつながります。

 

特性とくせいの違う物質ぶっしつ重合じゅうごうすることで、使う目的に合わせた強度を持たせることができるABS樹脂は、非常ひじょうに加工しやすい点がメリットとなっています。

 

アメリカで工業製品せいひんとして生産せいさんされるようになった後、多くの国で生産工場が建てられ、さまざまな製品に加工されているABS樹脂。

 

これから新たな技術ぎじゅつに利用されていくことが期待されています。

3Dプリンターの材料ざいりょうとして

3Dプリンターは、何そうものプリントを重ねて、立体の製品を作る機械きかいです。

 

紙に印刷いんさつするインクのように、プリンターに設置せっちした樹脂に熱をくわえてかしたり光をあててかためたりしながら、少しずつみ重ねて立体を作ることができます。

 

その樹脂材料としてABS樹脂が注目されています。

 

ABS樹脂は熱を加えて溶かすことができて加工がしやすく、立体を形成けいせいしやすいことから、製品を完成かんせいさせる前に作る試作しさく品の材料として多く利用りようされています。

塗装とそうや表面加工もしやすい

プラスチック素材そざい一般的いっぱんてきに、塗装をしてもがれやすい特性とくせいがあります。水分や油が浸透しんとうしない性質を持っているため、油性ゆせいと水性どちらの塗料とりょうもはじかれてしまいます。

 

そのため、通常つうじょうは塗装する前に表面をけずったりしてきずをつけ、塗料とりょう密着みっちゃくする加工をしなければなりません。

 

ABS樹脂じゅしは表面にツヤが出る素材なので、塗装をしなくても外装がいそうとして使えますが、塗装したい場合にはいくつかの注意が必要ひつようになります。

 

塗料にふくまれている溶剤ようざい種類しゅるいによっては影響えいきょうを受けることがあるため、ラッカーなどの溶液ようえきると、劣化れっかしてれやすくなる弱点があるのです。

 

しかし金属きんぞくのようなメッキ加工に対しては、ABS樹脂の持つ特性を生かすことができます。

 

ABS樹脂のメッキ加工は、3つの成分のうちのひとつ、ポリブタジエンだけをかす方法で行われます。

 

ポリブタジエンを溶かすと表面に小さなあなが開きます。

 

この穴は、下の画像がぞうのような、おくが広いかたちになっていて、アンカーフック(ものを引っかける役目をするもの)のように、った塗料が奥に入りこんでがれにくくなる効果こうか発揮はっきします。

ABS樹脂

自動車の正面についている「フロントグリル」という格子状こうしじょうの部分などは、メッキ加工をしたABS樹脂で作られています。

まとめ ABS樹脂じゅしのこれから

ABS樹脂は世界で広く生産せいさんされているプラスチックの1つです。

 

ABS樹脂は成分せいぶん調整ちょうせいすることで、耐熱性たいねつせいや耐薬品やくひん性、強靭きょうじん性といった特徴とくちょうくわえることができる便利べんり素材そざいですから、今後もさまざまな製品せいひん加工かこうされて、わたしたちのらしの中で活躍かつやくするはずです。

 

とくに、3Dプリンターの素材としては、これからもっと広い分野で使われていくだろうと考えられています。

 

3Dプリンターは、販売はんばいする商品の試作品しさくひんつくったり、建物たてものてるためにイメージを確認かくにんするための模型もけいを作ったり、最近さいきんでは、医療いりょうの分野でも医療用品の一部を作るなど、使われる用途ようとえてきています。

 

家庭用の3Dプリンターも登場して、フィギュアなどのおもちゃを自宅じたくで作れるようにもなりました。自宅で好きなおもちゃが作れたら、きっと楽しいことでしょう!

 

3Dプリンターで作ることができるものは、これから、もっと増えていきます。ABS樹脂は、3Dプリンターの活躍かつやくとともに、使われる機会も増えるだろうと期待されています。

 

重合の方法や、重合する素材などの研究は今も進められています。将来しょうらい、もっと強くてあつかいやすいABS樹脂が生まれてくるかもしれません。

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