公開日:2023.02.28
更新日:2023.02.28
AS樹脂で作られるのは、どんなプラスチック製品?ASって何の意味?
私たちの暮らしの、あらゆるところにプラスチック製品が使われています。
AS樹脂はその中でも、食べ物や人の肌にふれるものに使われる安全なプラスチック素材です。
しかし、「AS樹脂(SAN)」という名前を聞いたことがある人は少ないのではないでしょうか?
一体、どんな意味を持つ名前で、どんな特徴を持っているのでしょうか。
AS樹脂(SAN)ってなんだろう?
AS樹脂というのは、暮らしで使うさまざまなプラスチック製品に加工する前の、素材そのものの名前です。
ASはエーエスと読み、他にも「アクリロニトリルスチレン樹脂」という名前で呼ばれることもあります。
ASのAは、ナフサが原料となっているプロピレンから作られる「アクリロニトリル」という成分の頭文字で、Sは、ナフサから作られる、スチレンという素材の頭文字です。
スチレンは発泡スチロールのプラスチックであるポリスチレンのモノマーです。
アクリロニトリルは、重合してポリアクリロニトリルになり、溶剤に溶かして糸に加工してアクリル繊維となります。
このアクリル繊維を高温で加工することで、強化プラスチックに使うための「炭素繊維」という素材を作ります。
AS樹脂は、スチレンとアクリロニトリルを一緒に重合(共重合といいます)して作ります。
AS樹脂(SAN)はどんなプラスチック素材?
AS樹脂は、PS樹脂(ポリスチレン)の透明度を保ちながら、強度や薬品に対する耐性を高めるために加工して作られたプラスチックです。
2種類の素材の良いところを合わせたことで、AS樹脂は、すぐれた性能を持つことができました。
プラスチックの素材の中でも、とくに高い温度に耐えられる強さがあります。
さらに、引っ張ったりぶつかったりしてもこわれにくく、ひっかき傷にも強いことから、日用品としてたくさんの製品に加工されるようになりました。
AS樹脂の強さとは
AS樹脂は、80℃〜100℃の熱に溶けない強さを持っています。
お湯がぐらぐらと沸騰する温度が約100℃ですから、高い温度に耐えられる素材であることがわかりますね。
高温に耐えられるプラスチックはいろいろな種類があり、AS樹脂もそのうちのひとつです。
AS樹脂も弾性(外から力をかけられた時、元に戻ろうとする力)が高く、たたいたり落としたりしても、簡単にこわれることはありません。
酸やアルカリなど、プラスチックを溶かす力を持つ薬品にふれても劣化しにくく、バランスの良い強さを持つ素材と言えるでしょう。
AS樹脂の弱点
熱や油、酸にもアルカリにも強くてこわれにくいと聞くと、何にでも使えそうに思えてきますが、AS樹脂にも苦手なものがあります。
それは、「アルコール」です。長時間アルコールにふれていると、少しずつくすんで不透明になっていきます。
溶けたりすることはありませんが、アルコールを保存するための容器などには、AS樹脂は使われません。
AS樹脂が使われている製品は?
熱に強くて透明性もあるAS樹脂の製品は、直接人の肌や口に触れるものにも使える安全性を持つプラスチックです。
そのため、私たちの暮らしを便利にするためのさまざまな日用品となって活躍しています。
これから紹介するものの中には、きっと、「これ使っているよ!」と思うものがあるはずです。くわしく見ていきましょう。
食品容器
食品は、中身を見て間違えないように確かめて使う必要がありますね。
AS樹脂は透明度が高いので、しょうゆやゴマなどを入れて食卓に置いて使う容器や、食品を入れて長時間保存するための容器として使われています。
食品には、お酢などの酸や油が含まれているものもありますから、それらのものを入れても劣化しない強さを持つAS樹脂が適しているのです。
家電製品
扇風機のはねや、ジュースを作るジューサーの部品(ジュースカップなど)も、AS樹脂を使って作られている製品の一部です。
扇風機のはねは、高速で回転して風を起こします。毎日使うものですから、高速回転を続けても、折れたり変形したりしない素材でなければなりません。
ジューサーは、内側についているするどい刃を回転させることで、野菜や果物を細かくきざんだりジュースを作ったりするものです。
食品には酸味や油分などの成分が含まれていますし、刃を回転させるモーターの振動に負けない強いプラスチックの部品が必要になります。
AS樹脂は、こういった身近な家電製品の機能を支えるものとして、多く使われているのです。
雑貨
いろいろな成分に溶けにくい特徴を持っていることから、歯ブラシや、化粧品を入れる容器など、人の肌や口に触れるものにもAS樹脂から作られているものがたくさんあります。
赤ちゃん向けのおもちゃ、子ども向けの人形やミニカーなど、たくさんのおもちゃの一部に使われることが多いので、皆さんも知らないうちにAS樹脂で作られた部分を持っているおもちゃで遊んだことがあるかもしれませんね。
小さな子どもは、おもちゃを間違えて口に入れてしまうこともあります。
そのため、乳幼児向けのおもちゃで電動式でないものは、「食品衛生法」という、食べ物の安全を確かめるための法律でチェックをしています。
プラスチックであるAS樹脂も、食品衛生法の基準を守りながら、たくさんの製品に加工されているのです。
その他
自動車の部品にもAS樹脂の製品が使われています。
AS樹脂が使われているのは、主に、速度を示すメーター部分にホコリが入らないように付けられているメーターカバーのところ。
「インパネ」と呼ばれるこの部分は、正式には「インストルメンタルパネル」という名前の計器盤で、速度のほかにもガソリンの残量などを確認するための、大切な場所です。
だから、引っ掻き傷や長期間の使用に耐えて、くもったり壊れたりしづらいAS樹脂製のプラスチックが使われているのですね。
使い捨てライターのように、火を扱う危険なものにも使用されています。
ライターはガスの残量を確かめながら使うものなので、燃えにくく、透明性があるAS樹脂が適しているのです。
AS樹脂と他のプラスチックとの違いは?
私たちの身の回りのさまざまな製品として、人々の暮らしを支えるAS樹脂は、他のプラスチックとはどう違うのでしょう?
似ている素材や、プラスチック製品としてよく知られているアクリル素材との違いを見てみましょう。
ABS樹脂との違い
AS樹脂とよく似た名前の「ABS樹脂」という素材があります。
AS樹脂が2つの成分を組み合わせて作ったプラスチックであるのに対し、ABSは3つの成分を組み合わせて作られる素材です。
AS樹脂よりもやわらかく、表面にツヤがあるのが特徴で、見た目の美しさが必要な部分に用いられています。
アクリル樹脂との違い
アクリルという名前は、聞いたことがある人も多いのではないでしょうか?
新型コロナウイルス感染症の対策として、飲食店などでテーブルの仕切り板に使われるなど、 プラスチック製品の中でも、私たちの目にふれることが多い素材ですね。
AS樹脂とアクリル樹脂との大きな違いは、熱に耐える力。アクリル樹脂は、AS樹脂よりも少し低い、70〜90℃までの温度にしか耐えられません。
また、アルコールやベンジン、シンナーなどにも弱いため、食品の容器にはほとんど使われません。
アクリル樹脂のメリットは、ガラスよりも高い透明度です。
ガラスよりも軽くて割れにくいため、ガラスの代わりとして多くの場所で使われています。
アクリル樹脂とアクリル繊維は名前が似ていてまぎらわしいですが、違うものなので注意してください。
まとめ
酸や油を入れても溶けたりすることのない、AS樹脂というプラスチックについて、くわしく説明してきました。
「毎日使っているよ!」というものが、たくさんあったのではないでしょうか?
AS樹脂はいろいろな形に加工できる柔軟性と、人の肌や口に触れても安心な安全性をあわせ持つプラスチックです。
これからも、いろいろな製品となって私たちの暮らしを支えてくれることでしょう。
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