公開日:2023.02.24

更新日:2023.03.08

ポリ乳酸(にゅうさん)ってどんなプラスチック?やさしく解説(かいせつ)

ポリ乳酸(にゅうさん)ってどんなプラスチック?やさしく解説(かいせつ)!

わたしたちのらしをゆたかにしてくれるプラスチック。私たちの回りには、数えきれないほどのプラスチック製品せいひんがあります。

 

プラスチックは私たちの暮らしを豊かにしてくれる、たいへん便利べんり材料ざいりょうです。

 

その一方で、いま、世の中に出回っているプラスチック製品のほとんどは、かぎりある資源しげんの石油が原料げんりょうです。

 

また、製造や廃棄はいきのときに二酸化炭素にさんかたんそ排出はいしゅつしたり、ごみになると半永久的はんえいきゅうてきのこってしまったりすることなど、問題もあります。

 

そんなプラスチックの課題かだい改善かいぜんするために開発されているのが、バイオプラスチックという新しいプラスチックです。

 

今回は、バイオプラスチックの一つであるポリ乳酸にゅうさんにスポットライトを当て、その特徴とくちょうや、どんな製品に使われているのかを説明せつめいします。

 

この記事を読んで、ポリ乳酸への理解りかいを深めてください!

ポリ乳酸にゅうさんってどんなプラスチック?

ポリ乳酸にゅうさんは、今までのプラスチックとはちがう「バイオプラスチック」とよばれるプラスチックの一つです。

 

ポリ乳酸の説明せつめいをする前に、まずは、バイオプラスチックについて簡単かんたんに説明しましょう。

バイオプラスチックとは

プラスチックのほとんどは、石油を精製せいせいしてられる「ナフサ」という液体えきたい原料げんりょうにしています。

 

石油からできたプラスチックは、かぎりある資源しげんの石油が原料になっていることや、製造せいぞう廃棄はいきなどのときに二酸化炭素にさんかたんそ排出はいしゅつする、自然しぜんには分解ぶんかいされないのでごみがえるなど、さまざまな問題がありました。

 

バイオプラスチックは、そういった今までのプラスチック問題を解決かいけつするために生まれた、新しいプラスチックなのです。

バイオプラスチックの種類しゅるい

バイオプラスチックには、「生分解性せいぶんかいせいプラスチック」と「バイオマスプラスチック」の、2つの種類しゅるいがあります。

バイオプラスチックの種類(1)生分解性プラスチック

生分解性プラスチックとは、温度おんどなどの条件じょうけんがそろえば、微生物びせいぶつの力で少しずつ水と二酸化炭素たんそに分解されるプラスチックです。石油からできたプラスチックのように、いつまでもごみとして残ることはありません。

 

生分解性プラスチックは、植物からできるものもあれば、石油からできるものもあります。

バイオプラスチックの種類(2)バイオマスプラスチック

バイオマスプラスチックは、石油からではなく、植物など生物由来の原料げんりょうから作られるプラスチックです。

 

石油は限りある資源ですが、植物は何度も収穫しゅうかくできるので、なくなることはありません。また、植物は生長する中で光合成こうごうせいをするので、二酸化炭素を吸収し、酸素さんそを生み出します。

 

ですから、トータルで考えれば二酸化炭素の排出量を少なくすることができます(こういった考え方を、カーボンニュートラルといいます)。

 

なおバイオマスプラスチックには、すべてがバイオマスプラスチックの「全面的ぜんめんてきバイオマス原料プラスチック」と、原料の一部がバイオマスプラスチックの「部分的バイオマス原料プラスチック」があります。

 

生分解性プラスチックでもバイオマスプラスチックでもあるポリ乳酸

生分解性プラスチックは、微生物の力で分解されるバイオプラスチックです。

 

バイオマスプラスチックは、植物など生物由来の原料から作られるバイオプラスチックです。

 

どちらか1つの条件じょうけんたすバイオプラスチックもあれば、両方の条件を満たすバイオプラスチックもあります。

 

そしてポリ乳酸は、植物を原料にして作られ、微生物によって分解もされるので、両方の特徴とくちょうをあわせもつバイオプラスチックといえます。

バイオプラスチック

ポリ乳酸は、英語えいごでは「Polylactic acid」と書きます。そのため、「PLA」とりゃくして表記されることもあります。

 

ポリ乳酸は1930年代から研究が進められてきましたが、当初とうしょは、製品を作ると数ヶ月で分解が進んでボロボロになるなど、むしろ製品材料ざいりょうとしては使うことができないプラスチックでした。

 

研究が進み、実用化されたのはここ20年ほどのことです。

ポリ乳酸の分子式と構造式こうぞうしき

ポリ乳酸の分子式は、「(C3H4O2)n」となります。そして構造式こうぞうしきは、このように表されます。

ポリ乳酸

ポリ乳酸にゅうさん原料げんりょうや作り方

ここでは、ポリ乳酸の原料げんりょうや作り方について説明せつめいします。

ポリ乳酸の原料は植物

ポリ乳酸の原料は、サトウキビやトウモロコシ、トウキビなどの植物です。

 

どの植物も、たくさん収穫しゅうかくでき、もともと人が食べない部分を使うので、人の食べ物をうばうことがないという特徴があります。

 

たとえばサトウキビが原料の場合は、しぼりかすなどから取り出される糖類とうるい廃糖蜜はいとうみつ)を使います。

ポリ乳酸の作り方

ポリ乳酸は、以下いかのような作り方で作ることができます。

 

(1)サトウキビやトウモロコシなどの植物をくだいて、でんぷんを取り出します。

 

(2)でんぷんを酵素こうそ分解ぶんかいして、糖を取り出します。

 

(3)糖を乳酸菌にゅうさんきん発酵はっこうさせて、乳酸を作ります。

 

(4)乳酸を化学てき方法ほうほうで長くつなげ(重合)、ポリ乳酸を作ります。

 

(5)ポリ乳酸を加工かこう成形せいけいすると、プラスチック製品ができあがります。

ポリ乳酸にゅうさんにはどんな特徴とくちょうがあるの?

バイオプラスチック

ポリ乳酸は、バイオプラスチックです。今までのプラスチックにはない特徴とくちょうをもっています。

 

ここでは、ポリ乳酸の特徴を、メリットと課題かだい(デメリット)にけて紹介します。

ポリ乳酸にゅうさんのメリット

ポリ乳酸のメリット(1)分解ぶんかいされて水と二酸化炭素にさんかたんそになる

ポリ乳酸は、条件じょうけんがそろうと、微生物びせいぶつによって水と二酸化炭素にさんかたんそ分解ぶんかいされます。

 

そのため、包装袋ほうそうふくろやストローなどわたしたちの生活の中でたくさん消費しょうひされる、使いてのプラスチック製品の代用品などに使われています。

ポリ乳酸のメリット(2)焼却しょうきゃくしても熱量ねつりょうひく

一般的いっぱんてきなプラスチックは、焼却しょうきゃくすると高いねつが発生するものが多いです。

 

それに対してポリ乳酸は、焼却しても熱量ねつりょうひくいので、燃やしても焼却炉しょうきゃくろ負担ふたんが少ないというメリットがあります。

 

ポリ乳酸でできた袋とポリエチレンの袋を比較ひかくすると、ポリ乳酸の袋よりも、ポリエチレンの袋の方が、焼却したときの熱量や二酸化炭素の発生量が2倍ほど多いとされています(※1)

 

ちなみにポリ乳酸を焼却すると熱量が低いのは、ポリ乳酸の化学構造こうぞうによるものです。ですから、すべてのバイオプラスチックが、焼却すると熱量が低いわけではありません。

 

例えば、石油からできたポリエチレンの袋と、バイオマスでできたポリエチレンの袋でくらべると、燃やしたときの発熱量や二酸化炭素の発生量は同じです。

 

(※1)出典:NTT技術ジャーナル 2005.2

ポリ乳酸のメリット(3)原料に石油を使わない

ポリ乳酸はサトウキビやトウモロコシ、トウキビなどの植物を原料にして作られます。

 

これは、原料に石油を使わない「バイオマスプラスチック」に当たります。かぎりある資源しげんの石油を使わないので、資源保護ほごにつながります。

 

また、前の段落だんらく説明せつめいしたカーボンニュートラルの考えにより、地球温暖化おんだんかふせぐことができます。

ポリ乳酸の課題(デメリット)

ポリ乳酸の課題(1)値段ねだんが高い

ポリ乳酸は普及ふきゅうしていないので、石油から作る通常つうじょうのプラスチックにくらべて、値段ねだん(コスト)が割高わりだかになりがちです。

ポリ乳酸の課題(2)「使いて」が前提ぜんていになる

ポリ乳酸は、微生物によって水と二酸化炭素に分解されます。ふつうのプラスチック製品は、こわれにくく丈夫じょうぶなものほど重宝されます。

 

しかしポリ乳酸はその正反対で、時間がたてばかならこわれます。そのため「使いて」が前提ぜんていになります。

ポリ乳酸の課題(3)環境によって分解時間のスピードがわる

ポリ乳酸が水と二酸化炭素に分解されるスピードは、微生物の動きに左右されるので、一定にはなりません。

 

日本バイオプラスチック協会きょうかい実験じっけん(※1)では、土にめた生分解性プラスチックのボトルが、42日後にはあながあいてぼろぼろになりました。

 

しかし、必ず同じくらいの分解時間になるわけではありません。

 

(※1)日本バイオプラスチック協会「生分解性プラスチック製品の生分解の様子」より

ポリ乳酸にゅうさんはどんな製品せいひんに使われている?

廃棄食品

ポリ乳酸にゅうさんは、時間がたつと微生物びせいぶつによって水と二酸化炭素にさんかたんそ分解ぶんかいされるということが大きな特徴とくちょうです。その特徴をいかせる分野で使われます。

 

たとえば農業用フィルムの場合、使い終わったらそのまま土の中にめておけば、水と二酸化炭素に分解されて土の成分せいぶんとなります。ごみとして廃棄はいきする手間がかかりません。

 

同じように、生ごみぶくろも、ごみと一緒いっしょに廃棄すればよく、プラスチックの袋を回収かいしゅうしたりやしたりする必要ひつようもありません。

 

ストローやコップなどにもポリ乳酸を使うところがえています。ポイては絶対ぜったいにいけませんが、使い終わったストローやコップは軽くて小さいので、風にばされたりして、自然環境しぜんかんきょうの中に流れ出てしまいやすいのです。

 

普通ふつうのプラスチックなら分解されず、自然をよごしてしまいます。しかしポリ乳酸でできたコップやストローなら、そんな心配もありません。

ポリ乳酸が使われているおもな製品

名前ポリ乳酸
おもな製品

・農業用フィルム

・土木 資材 しざい

・生ごみ袋(たい 化・メタンガス 発酵 はっこう 施設 しせつ など)

・食品 容器 ようき

包装袋 ほうそうふくろ

・ストロー

・コップ

など

普及ふきゅう期待きたいされるポリ乳酸にゅうさん

ポリ乳酸にゅうさんをはじめとするバイオプラスチックは、まだまだ新しい技術ぎじゅつで、課題かだいもあります。

 

しかしバイオプラスチックは、石油の保護ほごやプラスチックごみといった、環境かんきょう問題を改善かいぜんする可能性かのうせいを持っています。

 

環境問題の解決は、わたしたちがこれからも地球でらしていくために必要ひつようなものです。

 

日本政府せいふでは2019年、「プラスチック資源しげん循環じゅんかん戦略せんりゃく」を発表しました。

 

また、2021年には、持続可能じぞくかのうなバイオプラスチックの導入どうにゅう目指めざした「バイオプラスチック導入ロードマップ」を発表しました。

 

「プラスチック資源循環戦略」や「バイオプラスチック導入ロードマップ」では、資源を守ったり、プラスチックごみをらしたりするために、社会や企業きぎょうがどんな取り組みをするべきなのかを、しめしています。

 

こうした取り組みの中で、「環境にやさしい」といわれるバイオプラスチックが注目されてきました。

 

国内のプラスチックメーカーでは、30年ほど前から、バイオプラスチックの研究・開発に取り組んできました。

 

そして2021年に発表された「バイオプラスチック導入ロードマップ」では、プラスチックのメーカーや、プラスチック製品を使うお店などに向けて、バイオプラスチックについての理解りかいを深めてもらい、導入をうながしています。

 

欧州おうしゅうバイオプラスチック協会きょうかい(EUBP)によれば、2018年の世界のバイオプラスチック製造能力は201万トンとなっています。

 

一方、日本では、2018年度のバイオプラスチックの出荷りょうは、4万5千トンでした(※1)。

 

ポリ乳酸をはじめとするバイオプラスチックは、私たちの未来をつくるプラスチックです。私たちのまわりにも、バイオプラスチックが大きく広がっていくことが期待されます。

 

私たちも、環境問題についてより深く考え、ものを大切に使ったり、リサイクルをしたりして、一人ひとりが、環境のために何ができるのかを考えていきましょう。

 

(※1)出典:プラスチックを取り巻く 国内外の状況〜バイオプラスチック導入ロードマップ検討会参考資料〜 概要3 世界のバイオプラスチック製造能力

まとめ

今回は、新しいプラスチックであるポリ乳酸ぽりにゅうさんについて学びました。

 

微生物びせいぶつによって水と二酸化炭素にさんかたんそ分解ぶんかいされるポリ乳酸。ポリふくろやスプーンなどの食器しょっきに、少しずつ取り入れられ、わたしたちのまわりにも製品せいひんえています。

 

私たちも、ポリ乳酸のプラスチック製品を目にしたら、積極的せっきょくてきに使っていきましょう。

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