カーボンニュートラルとプラスチック

この数十年で、人間が排出はいしゅつする二酸化炭素にさんかたんそなどの温室効果こうかガスの量は、急激きゅうげきに増ふえました。

それは、地球の気候すら大きく変えようとしています。

すぐに対策たいさくを立てないといけない問題ですが、人間が生きていく上で排出量をゼロにすることは難むずかしい。

そんな中で「これから排出する量をおさえると同時に、今すでに地球上にある温室効果ガスの量を減へらしていけば、計算上の排出量をゼロにできるんじゃないか」という考え方が生まれました。

それが「カーボンニュートラル」です。

「カーボンニュートラル」とは、温室効果こうかガスを排出はいしゅつした量と同じ分だけ吸収きゅうしゅうしたり取とり除のぞいたりして、実質じっしつ「温室効果ガスが出なかった」ことにする考え方です。

なぜ今、カーボンニュートラルに取り組む必要があるのでしょうか。

地球の外側をおおっている大気には、もともと、二酸化炭素にさんかたんそなどの温室効果ガスが含ふくまれています。

それらには、太陽が温あたためた熱を、ちょうどふたをするように地球のまわりに閉とじ込こめる働きがあります。

これが「温室効果」で、温室効果自体じたいは悪いものではありません。

温室効果がなかった場合、地球の表面温度は氷点下ひょうてんか19℃ほどになってしまいます。

現在げんざいの世界の平均へいきん気温はおよそ14℃ですから、私わたしたちがこごえることなく暮くらせるのはこの温室効果のおかげでもあるのです。

自然の状態じょうたいの温室効果ガスは、ちょうどいいバランスに保たもたれています。

動物が呼吸こきゅうによって吐はき出だした二酸化炭素にさんかたんそは、植物によって吸収きゅうしゅうされて、太陽の光から養分を作る光合成の材料になります。

温室効果ガスとその中に含ふくまれている炭素たんそは、そういった植物や動物の活動によって、地球の上をぐるぐるめぐっているのです。

しかし、産業の発展はってんによって人間が石油や石炭を大量に使うようになり、そのバランスが崩くずれて、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスはこの25年のうちに50％も増ふえてしまいました。

地球の気温が上がり北極・南極や高山の氷が溶とけて、海の面積はどんどん広がっています。

1901年から2010年までの109年で、海面が19cm上がったという調査ちょうさ結果もあります。

また、気温が上がると、植物の育ち方も変わります。

気温が1℃上がるごとに、小麦などの穀物こくもつを収穫しゅうかくできる量は約5%ずつ減へっていきます。

私わたしたちの食べ物は、これからどうなってしまうのでしょうか。

地球温暖化おんだんかを食い止めるために、世界の国々はさまざまなやり方で温室効果こうかガスの排出はいしゅつを少なくしようとしてきました。

使うエネルギーを減へらしたり、これまで石油や石炭を燃もやして作っていたエネルギーを太陽光や風力などの再生可能さいせいかのうエネルギー（温室効果ガスを排出せず、ずっと使っていけるエネルギー）に変えたりと、さまざまな取り組みが行われています。

しかし、私わたしたち人間がごはんを食べ、仕事をして、社会を動かしていくと、どうしてもある程度ていどの温室効果ガスは出てしまいます。

そこで登場したのが「温室効果ガスを排出した分だけ、吸収きゅうしゅうしたり取とり除のぞいたりすることでバランスをとる」という「カーボンニュートラル」の考え方です。

出典： COP25におけるClimate Ambition Alliance及(およ)効果(こうか)び国連への長期戦略提出状況等(せんりゃくていしゅつじょうきょうなど)効果(こうか)を受けて経済(けいざい)産業省作成（2021年1月20日時点）

2021年1月20日時点で「2050年までのカーボンニュートラル実現じつげんを目指す」と明らかにしているのは、日本を含ふくむ124カ国と1地域です。

それは、気候変動の問題を解決かいけつするために2015年に「パリ協定」として採択さいたくされた、世界共通の目標

「世界的な平均へいきん気温上昇じょうしょうを工業化以前に比くらべて２℃より十分低く保たもつとともに、1.5℃に抑おさえる努力を追求すること（２℃目標）」

「今世紀後半に温室効果こうかガスの人為的じんいてきな発生源はっせいげんによる排出はいしゅつ量と吸収源きゅうしゅうげんによる除去じょきょ量との間の均衡きんこうを達成たっせいすること」

に沿そった取り組みでもあります。

2020年10月、日本政府せいふは「2050年カーボンニュートラル宣言せんげん」を行いました。

その中で菅総理大臣すがそうりだいじん（当時）は、「社会は温室効果こうかガスを出さない方向に変わっていき、それにともなってたくさんの仕組みが必要になる。この変化を、面倒めんどうな決まりが増ふえたと考えるのではなく、経済を元気にするためのチャンスととらえるべきだ」という意味のメッセージを発信しています。

発想を転換てんかんして、温暖化対策を経済回復のチャンスにするという方針ほうしんを打ち出したのです。

それでは、今すでにある温室効果こうかガスを減へらす取り組みには、どんなものがあるのでしょうか。

温室効果ガスの中でも、一番わかりやすい二酸化炭素に話をしぼって見てみましょう。

一番単純たんじゅんなのは、木をたくさん植えることです。

産業の発展はってんで二酸化炭素にさんかたんそが増ふえた理由の一つは人間が石油や石炭を大量に使うようになったからですが、もう一つの理由として、土地開発や木材利用のために、木をたくさん切って森林の面積を減へらしてしまったこともあげられます。

光合成によって二酸化炭素を吸収きゅうしゅうしてくれる木の数を増やせば、その働きで二酸化炭素を減らすこともできるのです。

今、研究が進んでいるのが、木のくずなどを使ったバイオエネルギー発電と組み合わせ、発電の時に燃やして発生する二酸化炭素にさんかたんそを取り出して土の中に埋うめてしまうBECCS（ベックス・Bioenergy　With　Carbon　Capture　And　Storage）や、大気中たいきちゅうの二酸化炭素を直接回収ちょくせつかいしゅうして土の中に埋めるDACCS（ダックス・Direct　Air　Carbon　Capture　And　Storage）です。

炭素たんそを埋める場所をどうするかを考えなければいけませんが、植林よりも炭素を取とり除のぞく量をコントロールしやすいため期待されています。

大気中の二酸化炭素を取り除く技術ぎじゅつは、ほかにもたくさんの方法が研究されています。

それらは「ネガティブエミッション技術」と呼よばれています。

日本で1年間に排出はいしゅつされる二酸化炭素の約6％は、プラスチックなどを製造せいぞうする化学産業から出ています。

参考：資源(しげん)効果(こうか)エネルギー庁(ちょう)効果(こうか)ウェブサイト

プラスチック業界は、二酸化炭素の吸収・除去の取り組みを続けてきました。事例の一部を紹介しょうかいします。

「人工光合成」とは、植物が二酸化炭素にさんかたんそと水を原料に太陽の光を使って養分を生み出すのと同じように、二酸化炭素と水からプラスチックの原料を製造せいぞうする技術ぎじゅつです。

今研究されているのは、光によって化学反応はんのうを起こす「光触媒ひかりしょくばい」を利用して水を水素すいそと酸素さんそに分解ぶんかいし、取り出した水素と工場などから排出はいしゅつされた二酸化炭素を合わせて、ポリエチレンやポリプロピレンなどのモノマー（エチレンやプロピレンのことで、オレフィンともいう）を作る方法です。

二酸化炭素を減へらしながら新しいプラスチックも作れる人工光合成は、まさに一石二鳥です。

※図中の「オレフィン」とは、エチレン、プロピレンなどを指します。

出典：資源しげんエネルギー庁ちょうウェブサイト

通常つうじょう、原油から作られるプラスチックを、植物由来の材料（バイオマス）で作る。

それが「バイオマスプラスチック」です。

廃棄はいきされた後に焼却しょうきゃくするとほかのプラスチックと同じように二酸化炭素にさんかたんそを排出はいしゅつしますが、それは、原料の植物が大気中から取とり込こんだものなので差し引きゼロと考えます。

植物に吸収きゅうしゅうしてもらった二酸化炭素を、製品せいひんの中に閉とじ込こめているようなものです。

ムダ使いしてすぐに廃棄はいきせず、長い間大切に製品を利用すれば、その分、二酸化炭素もそこにとどまった状態じょうたいが続きます。

また、バイオマスプラスチックの活用は、限かぎりある資源しげんである原油の使用量を減へらし、そこからの二酸化炭素排出をおさえるためにも役立ちます。

今回は、カーボンニュートラルの概要がいようと、プラスチック業界の取り組みを紹介しょうかいしました。

たくさんのことを知って、温室効果こうかガス排出はいしゅつにつながりにくい行動を心がければ、私わたしたちも地球温暖化おんだんか防止ぼうしのために役立つことができます。

例えば、燃もやすごみをたくさん出す使つかい捨すての商品や余分よぶんな包装ほうそうが多い商品を買わないようにすること。

見ていないテレビを消すこと。

お風呂ふろをわかしたらすぐ入ること。

家族での外出は、できるだけ車よりも電車・バスを使うこと。

まずは、できることから始めてみませんか。