公開日:2022.11.08

更新日:2022.12.20

リチウムイオン二次電池の開発〜吉野先生インタビュー

2019年、旭化成あさひかせい名誉めいよフェローの吉野彰よしのあきらさんが、リチウムイオン二次電池の開発の功績こうせきにより、ノーベル化学賞かがくしょう受賞じゅしょうしました。「世界をえた」ともいわれる、リチウムイオン二次電池。いったい、どこがすごいのでしょうか。また、リチウムイオン二次電池とは、どんな電池なのでしょうか。その仕組みや開発の経緯けいい、そして化学の未来みらいについて、吉野先生にお話をうかがいました。

「リチウムイオン電池の開発」が、ノーベル化学賞を受賞した理由は?

リチウムイオン二次電池の開発の功績(こうせき)で、ノーベル化学賞を受賞した理由

吉野先生は、なぜリチウムイオン二次電池の開発の功績こうせきで、ノーベル化学賞を受賞できたかのでしょうか。

吉野先生にお話をうかがいました。

吉野先生

吉野先生:

 

「受賞理由りゆうは、2つあったんです。1つめは、現在げんざいのモバイルIT社会を実現じつげんするのに、リチウムイオン電池が大きな貢献をしたことです。これは、過去かこ業績ぎょうせきだと思います。

 

2つめの理由は、リチウムイオン電池はこれから地球ちきゅう環境問題かんきょうもんだいにたいして、その解決かいけつに大きな貢献こうけんをしていく可能性かのうせいめているということです。現在進行形げんざいしんこうけい、もしくは未来形みらいけいなんですよね。

 

地球環境問題を解決し、いわゆるサスティナブル社会、今はまだ残念ざんねんながら実現じつげんしていませんが、これから実現していかないといけませんね、と。

 

それにあたって、リチウムイオン電池が貢献してほしい。期待をこめた理由です」

リチウムイオン二次電池とはどんな電池なのか

リチウムイオン二次電池はどんな電池?

リチウムイオン二次電池は、現在げんざい、ノートパソコンやスマートフォンなど、はば広い分野で使われています。

 

そして今後、電気自動車や再生さいせいエネルギーの貯蔵ちょぞうといった、新しい分野で活用されることで、地球環境問題の解決に大きな役割やくわりたすことが期待されています。

 

では、リチウムイオン二次電池とは、どんな電池なのでしょうか。

使いての一次電池とくり返し使える二次電池

リチウムイオン二次電池

電池には、一度しか使えない使いての一次電池(放電のみ)と、くり返して使える二次電池(放電と充電じゅうでん)という、2つの種類しゅるいがあります。

使い捨ての一次電池

私たちのもっとも身近な電池は、懐中電灯かいちゅうでんとうなどで使われているかん電池です。乾電池は、使い捨ての一次電池です。

くり返し使える二次電池

リチウムイオン二次電池は、充電して、何度もくり返して使うことができる二次電池です。

二次電池は、これまでも、いろいろな種類が世の中にありました。

では、今までの二次電池と、リチウムイオン二次電池では、何がちがうのでしょうか。

リチウムイオン二次電池は有機溶媒ゆうきようばいを使う

今までの一次電池や二次電池は、電解液でんかいえき溶媒ようばい水溶液すいようえきでした。

 

それに対してリチウムイオン二次電池は、溶媒が水ではなく、有機溶媒ゆうきようばい(※1)を、電解液の溶媒に使うということが、もっともちがう点です。

 

(※1)有機溶媒=水にとけない物質ぶっしつをとかす有機化合物ゆうきかごうぶつ液体えきたいのこと

 

吉野先生:

 

従来じゅうらいの二次電池の起電力は、1.2ボルトくらいと、ひくかったんです。しかし、リチウムイオン二次電池の起電力は、4.2ボルト以上いじょうあります。従来の二次電池の4倍近い起電力の電圧でんあつを、1つの電池から取り出すことができます。これが、今までといちばんちがうところですね」

リチウムイオン二次電池は負極ふきょく新素材しんそざいを使用

リチウムイオン二次電池

電池は、化学変化へんかを利用して電流を取り出す装置そうちです。このしくみは、電解質の水溶液に、正・負の2種類の電極でんきょくを入れることで、電気を生み出します。

 

吉野先生は、この電解水を、水から有機溶媒にすることに加え、負極に、ある新素材を使う研究も進めました。

 

吉野先生:

 

「1980年代のはじめごろに、プラスチックでありながら電気が流れるという「ポリアセチレン」という、画期的かっきてき新素材しんそざいが出てきました。これは、2000年のノーベル化学賞を受賞された、白川英樹しらかわひでき先生が、発見されたものです。

 

この「ポリアセチレン」は、二次電池の負極にもなることがわかっていたので、そういった用途ようとにつなげることがいちばん面白そうだと、研究を進めました」

 

電気を通すプラスチックであるポリアセチレンは、二次電池の負極として、すぐれた特性とくせいを持っていました。

 

そして、もう一方の正極には、吉野先生と一緒いっしょにノーベル化学賞を受賞した、ジョン・グッドイナフ教授が開発した「コバルトさんリチウム」を使用することで、リチウムイオン二次電池の原型げんけいを、世界ではじめて考案こうあんすることに成功せいこうしたのです。

リチウムイオン二次電池はフィルムレパレーターを使用

リチウムイオン二次電池の構造模型

また、リチウムイオン二次電池には、プラスチックの一種いっしゅである、ポリエチレンを主成分せいぶんとするフィルムが、セパレーターとして使われています。

 

セパレーターとは、正極と負極の間にはさむことで、正極と不極の間をしゃだんし、ショートを防止ぼうししています。

 

また、セパレーターには多くのあなが開いているため、正極と不極の間で、リチウムイオンを透過とうかさせることができます。

 

このセパレーターの特徴が、くり返し充電して使えるリチウムイオン二次電池を生み出しているのです。

化学の魅力みりょくとは?

化学の魅力とは?

リチウムイオン二次電池の開発で、化学に大きな業績ぎょうせきのこした吉野先生。吉野先生は、化学にどのような魅力を感じていらっしゃるのでしょうか。

吉野先生

吉野先生:

 

「化学は、新しいものを生み出していくポテンシャルをもった学問だと思います。

いま、人類じんるい共通きょうつう課題かだいといえる大きなものの一つは、地球環境問題です。これは間違まちがいなく、そう遠くない未来に、サスティナブル社会が実現するときに、化学が相当、活躍かつやくすると思います。

もちろん、化学や電池だけが活躍する、ということではありません。しかし、化学はすそ野が広いので、他のいろいろな分野と融合ゆうごうしながら、新しいものを生み出していく。化学は、そういった可能性を秘めていることが魅力ですね」

吉野先生から中学生へのメッセージ

吉野先生

吉野先生:

 

「今の中学生のみなさんが、これから先、大きくなって、10年先ぐらいに社会に出られるころ、多分、今とは全然ぜんぜんちがう社会が生まれていると思います。

中学生のみなさんが活躍する場が、その社会にたくさんひそんでいると思います。世界が変わるときは、わかい人にとっては絶好ぜっこうのチャンスです。新しいことができるということになりますので、ぜひ、それを目指していただきたいなと思います」

化学は私たちのらしを支え、未来を変える

吉野先生

リチウムイオン電池に代表されるように、化学は、私たちの暮らしを支えています。

 

そして、みなさんとともに、さまざまな問題を解決し、世界を変えていくものでもあるのです。