公開日:2023.02.17
更新日:2024.10.08
環境にやさしい「生分解性プラスチック」とは?やさしく解説!
プラスチックは私たちの暮らしを豊かにしてくれる、たいへん便利な材料です。
その一方でプラスチックは、原料が限りある資源の石油であることや、廃棄時のプラスチックごみ問題、製造から処理に至るまでの二酸化炭素の排出問題など、さまざまな課題も抱えています。
そんなプラスチックの課題を改善するために開発されているのが、バイオプラスチックという新しいプラスチックです。
自然にやさしいとされるバイオプラスチックには「生分解性プラスチック」と「バイオマスプラスチック」の2つの種類があります。
今回は、生分解性プラスチックについて、どのようなプラスチックなのか、どんな特徴があるのか、なぜ環境にやさしいと言われているのかなどを、わかりやすく説明します。
バイオプラスチックとは何か
いまのプラスチックにある問題点
私たちの周りには、たくさんのプラスチック製品があります。
プラスチックは軽くてじょうぶで、いろんなカタチにすることができる、たいへん便利な素材です。
しかし、便利なプラスチックも、さまざまな課題を抱えています。
プラスチックの問題点(1) 石油を消費する
プラスチックは、石油を原料にして作られます。
石油は限りある資源なので、石油の消費量を少なくしないと、将来石油がなくなってしまう可能性があります。
プラスチックの問題点(2)二酸化炭素を排出する
プラスチック製品は、石油の採掘から原料化、成形など、製品化するまでにたくさんのエネルギーを使い、二酸化炭素を排出します。
大気中の二酸化炭素が増えると、温室効果によって、地球温暖化の原因になります。
プラスチックの問題点(3)ごみ問題
プラスチックは自然界では分解されません。
ポイ捨てや不法投棄されたような捨て方が悪いプラスチックは、ごみとなり、自然界に残って環境破壊の原因になります。
バイオプラスチックは「地球にやさしいプラスチック」
このようなプラスチックの問題を解決しようと開発されたプラスチックが、バイオプラスチックです。
プラスチックが抱える今まで環境問題を改善することから、「環境にやさしいプラスチック」と、呼ばれています。
バイオプラスチックの種類
バイオプラスチックには「バイオマスプラスチック」と「生分解性プラスチック」の2つの種類があります。
ここでは、「生分解性プラスチック」について詳しく説明しましょう。
1)生分解性プラスチック
普通のプラスチックは、自然界では分解されず、ポイ捨てや不法投棄されると、ずっとごみのまま残ってしまいます。
生分解性プラスチックは、一定の条件がそろうと、微生物などが分解して最終的には二酸化炭素と水になります。プラスチックごみを出さないという特徴があります。
微生物(生物)が分解してくれるプラスチックということで、生分解性プラスチックといいます。
生分解性プラスチック製品には、「生分解性プラ」と表示されたマークがついているものがあります。
このマークは日本バイオプラスチック協会が運営する生分解性プラ識別表示制度に合格した製品に与えられます。
生分解性プラスチックとバイオマスプラスチックの関係性
生分解性プラスチックとバイオマスプラスチックは、それぞれがまったく違うものだというわけでもありません。
生分解性プラスチックは、微生物が分解してくれるプラスチックです。
バイオマスプラスチックは、材料が植物など生物資源から作られたプラスチックです。
どちらか片方の特徴しか持たないバイオプラスチックもあれば、両方の特徴をもつバイオプラスチックもあります。
生分解性プラスチックの原料や作り方
生分解性プラスチックの原料
生分解性プラスチックの原料は、
(1) バイオ由来のもの(トウモロコシやサトウキビといった植物など)
(2) 化石由来のもの(石油や石炭など)
(3) (1)と(2)の混合由来(バイオ由来+化石由来)
の、3種類があります。
「バイオプラスチック」というと、植物などを原料にして作られているイメージがあります。
しかし生分解性プラスチックは、このように、必ずしも植物だけから作られているわけではありません。
生分解性プラスチックは「微生物が分解し、最後は炭素と水になる」ことが大切で、原料は決められていないといえます。
原料によってさまざまな生分解性プラスチックができる
原料がバイオ由来なのか、化石由来なのか、そして混合由来なのかによって、さまざまな生分解性プラスチックを作ることができます。
(1)のバイオ由来で作られる代表的な生分解性プラスチックには、「ポリ乳酸」や「PHA(ポリヒドロキシアルカン酸)」などがあります。
(2)の化石由来で作られる代表的な生分解性プラスチックには、「PVA(ポリビニルアルコール)」や「PGA(ポリグリコール酸)」などがあります。
(3)の混合由来で作られる代表的な生分解性プラスチックには、「PBS(ポリブチレンサクシネート)」や「澱粉ポリエステル樹脂」などがあります。
生分解性プラスチックの作り方
バイオプラスチックは、今もさまざまな研究が進んでいます。そのため、生分解性プラスチックの作り方も、さまざまな方法が開発されています。
ここでは、その一つの例として、「ポリ乳酸」という物質を使ったバイオプラスチックの作り方を紹介します。
]
ポリ乳酸は、生分解性プラスチックとバイオマスプラスチックの両方の特徴をもったバイオプラスチックを作ることができます。
ちなみに乳酸は、有機化合物(炭素が中心になっていろいろな元素が合体したもの)の一つで、私たちの体の中にも存在しています。
その乳酸を長くつなげたもの(重合といいます)が、ポリ乳酸です。
ポリ乳酸を使った生分解性プラスチックの作り方
ポリ乳酸を使った生分解性プラスチックの作り方は、以下のとおりです。
(1)サトウキビやトウモロコシなどの植物をくだいて、でんぷんを取り出します。
(2)でんぷんを酵素で分解して、糖を取り出します。
(3)糖を乳酸菌で発酵させて、乳酸を作ります。
(4)乳酸を化学的な方法で長くつなげ(重合)、ポリ乳酸を作ります。
(5)ポリ乳酸を加工・成形すると、プラスチック製品ができあがります。
生分解性プラスチックで作られる製品
生分解性プラスチックは、分解されるという特性をいかせる分野で使われます。製品(商品)例を紹介します。
・農業用フィルム
・土木資材
・生ごみ袋(たい肥化・メタンガス発酵施設など)
・食品容器
・包装袋
・ストロー
・コップ
など
生分解性プラスチックのメリットや課題
ここでは、生分解性プラスチックのメリットと課題について説明します。
生分解性プラスチックのメリット
メリット(1)分解されて水と二酸化炭素
生分解性プラスチックのいちばんのメリットは、条件がそろうと、分解されて水と二酸化炭素になることを前提に作られています。
そのため、包装袋やストローなどの私たちの生活の中でたくさん消費される、使い捨てのプラスチック製品などに使われています。
こういったメリットをいかして、生分解性プラスチックは、農業用シートや回収袋に利用されています。
農業用フィルムを生分解性プラスチックにすれば、作物の収穫後に土にまぜても、そのまま水と二酸化炭素になるのでフィルムを回収する必要がありません。
食べものを再資源化するときは、食べ残しを生分解性プラスチックの収集袋で回収すれば、食べものはたい肥やメタンガスになり、収集袋は分解されて水と二酸化炭素になるので、袋がごみになることがありません。
メリット(2)焼却しても熱量が低い
ふつうのプラスチックは、石油が原料なので、焼却すると高い熱がでます。
それに対して生分解性プラスチックは、焼却しても熱量が低いので、焼却炉の負担が少ないとうメリットがあります。
ポリ乳酸でできたバイオプラスチックの袋とポリエチレンの袋を比較すると、ポリ乳酸の袋よりも、ポリエチレンの袋の方が、焼却したときの熱量や二酸化炭素の発生量が2倍ほど多いとされています(※1)
こういった理由で、生分解性プラスチックは廃棄物処理の合理化や、海に流れ込んでしまった海洋プラスチックを減らすことなどが期待されています。
生分解性プラスチックの課題
生分解性プラスチックは、今までのプラスチック問題の解決を期待されています。
しかし、まだ課題(デメリット)もあります。こうした課題を理解したうえで、バイオマスプラスチックを有効に使う必要があります。
課題(1)値段が高い
生分解性プラスチックは、普及していないので、石油から作る通常のプラスチックにくらべて、値段(コスト)が割高になりがちです。
課題(2)「使い捨て」が前提になる
生分解性プラスチックは、微生物によって水と炭素に分解されるプラスチックです。
ふつうのプラスチック製品は、こわれにくく丈夫です。しかし生分解性プラスチックはその正反対で、「使い捨て」が前提になります。
ごみを減らす取り組みの「リユース(何回も使う)」と「リサイクル(再生する)」はできないことになります。
課題(3)環境によって分解時間のスピードが変わる
生分解性プラスチックが水と炭素に分解時間のスピードは、環境によって微生物の動きが活発になったり、にぶくなったりするので、一定にはなりません。
日本バイオプラスチック協会の実験(※1)では、土に埋めた生分解性プラスチックのボトルが、42日後には穴があいてぼろぼろになりました。
しかし、必ず同じくらいの分解時間になるわけではありません。
普及が期待されるバイオプラスチック
バイオプラスチックは、まだまだ新しい技術で、課題もあります。しかしバイオプラスチックは、石油の保護やプラスチックごみといった、環境問題を改善する可能性を持っています。
環境問題の解決は、私たちがこれからも地球で暮らしていくために必要なものです。
日本政府では2019年、「プラスチック資源循環戦略」を発表しました。
また、2021年には、持続可能なバイオプラスチックの導入を目指した「バイオプラスチック導入ロードマップ」を発表しました。
「プラスチック資源循環戦略」や「バイオプラスチック導入ロードマップ」では、資源を守ったり、プラスチックごみを減らしたりするために、社会や企業がどんな取り組みをするべきなのかを、しめしています。
こうした取り組みの中で、「環境にやさしい」といわれるバイオプラスチックが注目されてきました。
国内のプラスチックメーカーでは、30年ほど前から、バイオプラスチックの研究・開発に取り組んできました。
そして2021年に発表された「バイオプラスチック導入ロードマップ」では、プラスチックのメーカーや、プラスチック製品を使うお店などに向けて、バイオプラスチックについての理解を深めてもらい、導入をうながしています。
日本ではすでに、ポリ乳酸以外にPHA(ポリヒドロキシアルカン酸)やPBS(ポリブチレンサクシネート)といった生分解性プラスチック素材が開発され、ストローやレジ袋、食品容器、農業用フィルムなど身の回りのさまざまな製品に使われています。
欧州バイオプラスチック協会(EUBP)によれば、2021年の世界のバイオプラスチック製造能力は242万トンとなっています(※1)。
一方、日本では、2019年度のバイオプラスチックの出荷量は、4万7千トンでした(※2)。
バイオプラスチックは、私たちの未来をつくるプラスチックです。私たちのまわりにも、バイオプラスチックが大きく広がっていくことが期待されます。
私たちも、環境問題についてより深く考え、ものを大切に使ったり、リサイクルをしたりして、私たち一人ひとりが、環境のために何ができるのかを考えていきましょう。
(※1) 出典:European Bioplastics,nova-institute(2021)
(※2) 出典:日本バイオプラスチック協会
まとめ
今回は、生分解性プラスチックについて学びました。
生分解性プラスチックは、ふつうのプラスチックとちがい、微生物によって水と二酸化炭素に分解されるので、プラスチックごみにならないという大きな特徴があります。
これから私たちのまわりに、どんな生分解性プラスチックの製品が登場するか、注目していきましょう。
アーカイブ